【にゃんこらむ】 琉球にゃんこの歴史(1) 上里隆史(琉球歴史家)

 

ネコは沖縄のなかでどのように人と関わってきたのでしょうか?

沖縄の歴史でネコというと、宜野湾の我如古に残る化け猫伝説などにみられるように、

カワイイ動物というより怖いもの、神さまの使いといったイメージのほうが強いように思います。

 

例えば、ほんの数十年前まではネコが死ぬと化けて出てくるのを恐れて、

 木の枝になきがらを吊るしておくなんて風習も残っていました(今やったら虐待とまちがわれるかもしれませんね)。

 

実際に歴史を調べてみると、ブタやウシといった家畜についてはそこそこ研究されていますが、

ネコについてはほとんど言及されていません。つまり沖縄のネコ史はよくわかっていないのです。

 

 

 

そこで気づいた限りの史料のなかから、沖縄のネコについて紹介したいと思います。

 

およそ600年前の沖縄各地のグスクからは、ネコの骨が見つかっています。

たとえば大里グスク(南城市)や中城グスク(中城村)の発掘調査からはイエネコの骨が出土しています。

 

グスク時代、すでに人とネコが共生していた証拠です。

野生のヤマネコではないようなので、ペットとして飼われていたかもしれません。

大里グスクは琉球を統一した尚巴志(しょうはし)が住んでいた場所なので、

尚巴志がネコ好きだった可能性も?

 

1477年、朝鮮の済州島から嵐で与那国島に流れつき、

沖縄島経由で故郷に帰された人たちの証言によると(『朝鮮王朝実録』)、

彼らが訪れた先島諸島ではウシやニワトリとともにネコが飼われていたそうです。

 

ネコがすべての島で飼われていたのに対し、イヌを飼っている島は少なく、

当時の先島ではネコのほうが一般的だったことがわかります。

また食用にしたとは書かれていないので、ネズミ獲りが目的だったか、あるいはペットとして飼われてたようです。

 

1606年に琉球を訪れた中国の冊封使(さくほうし)の記録には、琉球の動物について、こう述べています。

 

「まったく犬はおらず、好んで異色の猫を飼っている」(夏子陽〔原田禹雄訳注〕『使琉球録』)

「異色」というのは「変わった色」のほかに「きれいな色」という意味もあるので、

中国人にとっては珍しい柄のネコちゃんだったのかもしれません。

 

沖縄には古くから琉球犬がいますので、まったくイヌがいなかったわけではないですが、

中国人が沖縄に滞在している数ヶ月間、イヌを目にすることがなかったということは、

イヌよりもネコを飼う人たちが多かったことを示しています。

 

しかも「好んでネコを飼っている」ということなので、やはり琉球の人たちはネコ派が多かったということなんでしょうね。

 

 

 

 【執筆者プロフィール】

 

上里隆史(うえざと たかし)

 

 

琉球歴史家。法政大学沖縄研究所国内研究員。専門は琉球の歴史。著書に『目からウロコの琉球・沖縄史』、『海の王国・琉球』、『尚氏と首里城』、『新聞投稿に見る百年前の沖縄』ほか多数。NHKドラマ「テンペスト」時代考証もつとめる。