「キャット・フレンドリー・クリニック」。
初めて耳にする方も多いのではないでしょうか。
これは、猫医学の発展を目的にイギリスで設立された「isfm(International Society of Feline Medicine)※」が定める
国際基準を満たした「ねこに優しい動物病院」のこと。
ねこは非常にデリケートでストレスを感じやすい動物です。
病院へ連れて行くのに苦労している飼い主さんも多いと思いますが、
そんなねこの特性を理解し適切な医療を提供してくれるのがキャット・フレンドリー・クリニックなのです。
猫専門の病院もありますが、多くは普通の動物病院が設備や対応面でねこに優しい工夫を凝らし、
審査を経てキャット・フレンドリー・クリニックに認定されています。
この活動は欧米を中心に世界的に普及しており、
現在国内では100件以上の動物病院が認定病院となっています。
今回は、豊見城市にある沖縄県唯一のキャット・フレンドリー・クリニック、「琉球動物医療センター」で、
ねこに特化した医療や取り組みについてお話をうかがいました。
ねこさん、そして飼い主さんの不安を軽減
豊見城市のバイパス沿いに見える赤い屋根。
南国ムードただよう一軒家のような建物が「琉球動物医療センター」です。
入口のドアに「キャット・フレンドリー・クリニック」の表示があります。↑このマークが目印!
琉球動物医療センターの診察対象は、ねこ、犬、うさぎ、鳥、爬虫類など幅広く、
あらゆる動物にやさしい病院なのですが、中に入ると待合室の角に早速「ねこ優先席」が!
ワンちゃんや他のねこちゃんに怯えるコも多いので、落ち着ける場所があるのはありがたいですね。
“猫一倍”神経質なねこちゃんの場合は、車で待っていてもOK。順番がきたら呼びに来てくれます。
診察室は3部屋あり、受付のすぐ横が「ねこちゃん優先診察室」です。
さらに、奥にある入院室も猫室、犬室が完全に分けられており、それぞれの場所はとても離れていました。
スタッフの皆さんも極力ワンちゃんの気配を感じずに済むよう配慮してくれます。これなら入院中も安心ですね。
また、診察室にモニターがあることや、入院日数に適したケージのサイズにすることなども
キャット・フレンドリー・クリニックの認定基準となっています。
院内を案内してくれた獣医師の澤由貴先生(写真)によると、キャット・フレンドリー・クリニックに認定されるためには、病院の施設や設備、スタッフの知識など細かく厳しい基準をクリアする必要があるそうです。
「認定基準にはブロンズ、シルバー、ゴールドがあり、当院はシルバーレベルの基準を満たしています。ハード面だけでなく、飼い主さんにもっと病院を身近に感じてもらいたいという思いもあってキャット・フレンドリー・クリニックを導入しました。
もともと他院からのご紹介で重症の動物を受け入れる場合も多かったため、困惑して来院する飼い主さんの要望をじっくり聞いたり、治療方法を丁寧に説明するインフォームドコンセントを重視していました。キャット・フレンドリー・クリニックの規約にも『飼い主さんの話を10分以上聞きましょう』という項目があり、当院のコンセプトはそうした規約にも近かったと思います。
現在、診察は予約優先制にして一人につきなるべく30分以上の時間を設けるようにしています。また、基本的に飼い主さんの前で処置をするなど、飼い主参加型のスタンスをとっています」
愛猫の病気でテンパっているとき、時間をかけて話を聞いてもらえるのはとても心強いことです。
ねこだけでなく飼い主にも優しいのがキャット・フレンドリー・クリニックなんですね。
「ねこは新しい場所を嫌い怖がってしまうので、環境に慣れてもらう時間が必要です。最初の段階で怯えてしまうとその後の治療や処置に影響してしまい、検査の数値がぶれてしまうこともあるんです」と澤先生。
「なので、診察室でも緊急の場合以外はこちらからすぐにアプローチせず、飼い主さんの話をうかがっている間、ねこさんにはケージの中で落ち着いてもらい、まわりを観察する余裕をもてるようにしています。ねこは体がやわらかいので無理矢理おさえたりするとうまくいきません。それこそ“ねこ様”という感じで、こちらがねこの出方に合わせないと(笑)。時間をかけることで飼い主さんとのコミュニケーションもとりやすくなり、その後の診察もスムーズに行うことができるので、キャット・フレンドリーの実践はいいことづくめなんですよ」
ねこにはねこの治療がある!
ところで、「澤先生はやっぱりねこ好きなんですか?」と聞いてみると、「動物はみんな好き」という答えとともに、やはりドクターならではの視点がありました。
「元々は犬派で、ねこは飼ったことがなかったんですが、病院で飼っているねこをお世話しているうちに習性や特徴を理解できるようになり、知れば知るほどねこは難しいと感じるようになりました。我慢できる時間も短いし、犬より突拍子もない行動をする。
そもそも獣医学自体、犬が基本なのですが、今は獣医界に『ねこは小さな犬ではありません』という言葉もあって、犬の延長線上の医療ではなく、ねこにはねこ独自の病気や治療方法があるという認識が広がっています。今後はキャット・フレンドリー・クリニックをとおして、さらに質の高い猫医療が求められるようになっていくと思います」
琉球動物医療センターでは、この8月からねこちゃん専用の診察時間「ねこタイム」を新設。毎週火曜日の14時~15時30分は完全予約制(30分1組)で、他の動物に会うことなく、よりリラックスした状態で診察を受けることができます。
「キャット・フレンドリー・クリニックとしてまだまだ改善点はたくさんあると思いますが、これからもスタッフ全員が協力して対応していきたいと思っています。特に当院では獣医師だけでなく看護師の意識も高く、知識を持ったスタッフがしっかり対応していますので、お気軽にご相談ください」
澤先生の言葉通り、実は筆者も同センターの看護師さんの対応に感動した飼い主の一人。
愛猫を病院へ連れて行くことに不安を感じている飼い主さんには、
ぜひキャット・フレンドリー・クリニックで同じ体験をしてほしいと思っています。
▲上の写真は琉球動物医療センターのねこスタッフ、だいこんちゃん(上)とちくわちゃん(下)。
ねこスタッフもひとスタッフをしっかりサポートしています!
最後に、澤先生に沖縄ならではのねこの病気について聞いてみました。
澤先生は琉球動物医療センターの本院、埼玉県の「みずほ台動物病院」から転勤で沖縄に来られたそうです。
「沖縄のねこちゃんはやはり寄生虫が多いですね。私はねこのフィラリアを沖縄で初めて見ました。フィラリア症は正式名称を犬糸状虫症(いぬしじょうちゅうしょう)といって基本的には犬に感染するのですが、稀にねこへの感染が成立してしまいます。沖縄の温暖な気候も関係していると思いますが、ノミやダニも多く、ノミに寄生されすぎて貧血がひどくなってしまったねこちゃんもいました。反対に尿石症は内地よりも少ない気がします。暖かいから水をよく飲むのかもしれませんね」
埼玉では特に冬になると血尿で受診するねこちゃんが後を絶たなかったそうです。
また、沖縄はやはりハブに咬まれるねこちゃんが多いようです。
地域の環境によって注意する点も変わってきますね。
今回はキャット・フレンドリーなお話をたくさん聞くことができました。
ねこに優しい病院は、非常に心強い存在です。
病気の治療だけでなく、予防の相談もしながら、デリケートなねこちゃんの健康を守っていきましょう!
※「isfm」は、国際的な猫のチャリティ団体「International Cat Care」の獣医療部門。日本では猫医学研究を推進する「JSFM(Japanese Society of Feline Medicine/ねこ医学会)」がisfmの公式パートナーとしてキャット・フレンドリー・クリニックの普及活動を行っている。
取材協力/琉球動物医療センター TEL.098-851-2211
テキスト・写真/伊藤玉緒(Write&)