琉球の時代、絵師たちはいろいろな動物を描いていました。
虎や小鳥、馬、あるいは「白澤(はくたく)」という人面牛の変な生き物まで…
そして猫! 沖縄戦などで作品はたくさん残っているわけではないですが、
いくつか現存しています。
その代表的な作品が「神猫図(しんびょうず)」と呼ばれるもの。
作者は琉球王府の絵師として活躍した呉師虔(1672~1743年)という人物。
現在、那覇市歴史博物館に所蔵されています。
【那覇市歴史博物館 所蔵】
絵をみてみると、真っ白な毛の猫がチョコンとすまして座っています。
そしてシッポだけが真っ黒。なんといっても毛の1本1本が丁寧に描かれ、
モフモフ感120%。目はクリっとして、正面は向いてなく、斜め下を向いています。
何か動く草や虫を凝視してるのでしょうか?
背景にはゆるやかな斜面に花や草が生えているという構図です。
おもしろいのは、この絵画とまったく同じ構図の猫図がもう2作品あることです。
一つは一般財団法人 沖縄美ら島財団が所蔵している「月下神猫図(げっかしんびょうず)」。
この作品は王府の絵師だった査丕烈(1843年~?)が描いたもので、
同じ構図ながら、背景に木の柵やボタンの花、おぼろ月が付け加えられています。
そして何といっても猫ちゃんの柄が白ではなく、ブチ柄をしています。
この作品は、呉師虔の神猫図よりも後の時代のものでより精巧に描かれています。
西洋絵画の技法を取り入れたとみられ、パワーアップしてるのです。
【一般財団法人 沖縄美ら島財団 所蔵】
もう一つは尚王家の一族、尚順男爵が持っていた殷元良の描いた「神猫図」。
こちらも同じ構図です。もともとは尚泰王(1843~1901年)が
持っていたものを尚順男爵がもらったもので、残念ながら失われてしまいましたが、
戦前に撮影された写真でその図を見ることができます。
こちらは沖縄県立芸術大学に写真が所蔵されています。
こちらの神猫図は呉師虔の描いた猫ちゃんと同じ柄です。
おそらくこちらの王さまが持っていたものがオリジナルで、
それをもとに他の作品が描かれていったのでしょう。
【沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館 所蔵】
構図は同じでも、査丕烈の「月下神猫図」は、
猫ちゃんの毛の色をアレンジしているのが面白いですね。
その模様は複雑で、かなりこだわって描いているように見えます。
もしかしたら自分の近くにいる猫ちゃん(飼い猫?)を
モデルにしたのかもしれません。
実はこのブチ柄猫ちゃん、「カミマヤァー」という首里城公園の
マスコットキャラになっています。
解説いわく「琉球王国に数百年、居座り続けている神猫」らしいです(笑)。
首里城公園を訪れる際には、ぜひ探してみてください。
【プロフィール】
上里隆史(うえざと たかし)
琉球歴史家。法政大学沖縄研究所国内研究員。
専門は琉球の歴史。著書に『目からウロコの琉球・沖縄史』、
『海の王国・琉球』、『尚氏と首里城』、『新聞投稿に見る百年前の沖縄』ほか多数。
NHKドラマ「テンペスト」時代考証もつとめる。
過去の上里隆史さんのコラムは下記からご覧ください。
琉球にゃんこの歴史2
【協力】
一般財団法人 沖縄美ら島財団
沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館
那覇市歴史博物館